プリンシプルBSDFで自動車の塗装の作り方/前編
※記事製作時のバージョン:Blender2.92
プリンシプルBSDFで、いろいろな質感表現の方法を探っていくシリーズ。
第12回は自動車の塗装の作り方/前編です。
今回は新しいパラメーターの説明ではなく、これまでに紹介したパラメーターを組み合わせて質感を作る内容です。
プリンシプルBSDFは現実の物理法則に基づいた仕組みなので、実際の材質の構造を元にパラメーターを設定することで、効率よく、的確に質感を表現できます。
その点、自動車の塗装の構造はほどよく複雑でほどよく理解しやすいので、ちょうど良い練習材料にもなると思います。
というわけで、実際の自動車塗装の構造を調べながら、5種類の塗装のマテリアルを作っていきます。
今回の記事は長いので、前・後編に分けています。
<前編>
- 自動車塗装の基本構造
- ソリッド塗装
- メタリック塗装
<後編>
- マット塗装
- キャンディー塗装
- パール塗装
後編はこちらのリンクからどうぞ。
自動車塗装の基本構造
通常、車の塗装は次の4層から成り立っています。
- 下地処理:車体の防サビと、塗装の密着性を向上させるための塗装
- 中塗り:上塗りの補強を目的とした塗装
- 上塗り:実際のボディーカラーの塗装
- クリア塗装:塗装の保護や、光沢(高級感)を出すための、透明な塗料による塗装
この内、実際に目に映るのは上塗りで、ここがマテリアル作成のメインの対象となります。
下地と中塗りは、上塗りで隠れて見えなくなるので、マテリアル作成的には対象外となります。
ただし、傷や塗装剥げなどを表現する場合は考慮します(今回の記事ではそこまでは触れません)。
クリア塗装は、クリアコートで表現します。
ソリッド塗装
ソリッド塗装は、単色の樹脂塗料による塗装です。
※solid:単一色の
イメージ的にはペンキを塗るだけに近い、一番ギミックの少ない単純な塗装です。
画像出典:https://pxhere.com/en/photo/900630
「単色」というのは塗料の種類のことで、車体全体は2色や3色で塗り分けられていることもあります。
部分部分で見れば単色の塗料による、ソリッド塗装です。
画像出典:ワーゲンバスに乗ってみたい!人気モデルや中古での購入費はいくら? - COBBY
耐久性があるので、クリア塗装は必須ではありません。
しかし最近は、外観へのこだわりや耐久(候)性向上の面から、クリア塗装を施している車も多いようです。
マテリアルの作り方
ソリッド塗装は単純な樹脂塗装なので、樹脂製品と同じ方法でマテリアルを作成します。
- ベースカラー:好みで設定
- 粗さ(ラフネス):0.15
※樹脂製品についての詳細はこちら
プリンシプルBSDFで樹脂製品の作り方 - Blenderであそんでみた
クリア塗装が施されている、またはワックスがかけられている設定の場合は、クリアコートを追加します。
- 粗さ(ラフネス):0.5
- クリアコート:1.0
※クリアコートについての詳細はこちら
プリンシプルBSDFでニス・ワックス塗りの作り方 - Blenderであそんでみた
基本的に、粗さ(ラフネス)は大きめにして、クリアコートで反射・映り込みを表現する方が、自動車としては自然な見た目になります。
ただし、ベースカラーによっては粗さ(ラフネス)を小さめにして、スペキュラーで反射・映り込みを表現する方が良い場合もあります。
作りたい車の状態に応じて、粗さ(ラフネス)・クリアコート・クリアコートの粗さを調整します。
基本はこれで出来上がりですが、もう少し作り込んでみます。
バンプマッピングで板金の歪みを表現
下の画像は、粗さ(ラフネス)を 0.0 にした車体です。
ツヤッツヤですが、映り込みが綺麗すぎて、CGくさい不自然さが感じられます。
ノイズテクスチャで弱いバンプマッピングをかけると、板金の微細な歪みが表現され、より自然な見た目になります。
この場合のノイズテクスチャはスケールを小さめにして、車体に対する色ムラの大きさが下の画像くらいになるように調整します。
この板金歪みの表現は、ソリッドに限らず、他の塗装でも有効です。
ノーマルとクリアコート法線には、基本的にこのバンプをかけるようにすると良いです。
メタリック塗装
メタリック塗装は、ソリッド塗料の中にアルミニウム片の粒子を混ぜた塗料による塗装です。
アルミ粒子の反射により、キラキラした金属光沢が生じます。
画像出典:Silver Paint Codes... | Factory Five Racing Forum
アルミ粒子の酸化を防ぐため、必ずクリア塗装が施されます。
マテリアルの作り方
純粋な金属のマテリアルを作る場合、メタリックの値は必ず 1.0 にして、0~1 の中間値は使いません。
しかしメタリック塗装は樹脂塗料にアルミ粒子を混ぜたものなので、こういう場合は中間値で表現します。
- メタリック:0.5~1.0
- 粗さ(ラフネス):0.2~0.6
- クリアコート:1.0~2.0
- ベースカラー:好みで設定
※メタリックについての詳細はこちら
プリンシプルBSDFで金属の作り方 - Blenderであそんでみた
メタリック塗装は、アルミ粒子の大きさや、塗料に混ぜる配合比により、金属光沢が強いものから樹脂的な質感が強いものまで、いろいろな見た目があります。
イメージする見た目に合わせて、メタリックや粗さ(ラフネス)などの値を調整します。
下は樹脂的な質感を強くした例です。
- メタリック:0.7
- 粗さ(ラフネス):0.6
- クリアコート:1.0
- クリアコートの粗さ:0.1
アルミ粒子が大きいものは、光沢がザラッとした感じになります。
それを表現する場合、ボロノイテクスチャでノーマルマッピングをします。
遠目では分かりにくいですが、拡大するとザラザラした反射が見えるようになります。
ボロノイテクスチャのスケールは 2000~4000 くらいにして、模様をかなり細かくします。
これくらい細かい模様だと、レンダリング後のデノイズで消されてしまうので、デノイズはOFFにしておきます。
実際のメタリック塗装ではクリア塗装は必須ですが、あえてクリアコートを使わずに仕上げても、味のある質感になります。
さらに、粗さ(ラフネス)を 0.0 にすると、完全に鏡面になります。
現実的にはまずありえない質感ですが、こういうのもCGらしくて面白いと思います。
以上、自動車の塗装の作り方/前編でした。
後編の『マット塗装』『キャンディー塗装』『パール塗装』に続きます。
※添削・構成アドバイス:相方
自動車の3Dモデル
自動車の3Dモデルはこちらからお借りしました。
参考サイト
車の塗装の種類とは?基本の塗料3種をご紹介|カーコンビニ倶楽部
Blender Car Material Tips カーマテリアル解説【字幕あり】 - YouTube
↑ 最後のリンクでは、いろいろな塗料・塗装方法での、上塗り段階(クリアコート前)でのツヤが確認できるので、粗さ(ラフネス)設定の参考になります。