※記事製作時のバージョン:Blender2.83
プリンシプルBSDFで、いろいろな質感表現の方法を探っていくシリーズ。
第5回は宝石のマテリアルの作り方です。
この記事では、ダイヤモンドやルビーなど透明系のものについて説明します。
真珠や翡翠など半・不透明の宝石の作り方は、今回は対象外となります。
今回の内容は『ガラスの作り方』の続きとなっています。
未読の方はこちらの記事からお読みください。
宝石は、ガラスと同じく「光を透過・屈折する質感」です。
まずは伝播を「1」にします。
ガラスとの質感の違いはIORで表現します。
IOR(屈折率)
「Index of Refraction」の頭文字で、直訳するとズバリ「屈折率」です。
ガラスなどを透かして見ると向こうが歪んで見えるのが「屈折」ですが、その歪みの強さを表します。
1.0 が屈折無し。値が大きくなるほど歪みも大きくなります。
IORは実際の物質に基づいた値を設定するのが基本です。
主な透過系の材質のIORは次の通りです。
- IOR 材質
- 1.31 氷
- 1.33 水
- 1.45 ガラス・アクリル・ポリプロピレン・食用油脂・石油製品(ガソリン・灯油・オイルなど)
- 1.54 水晶・琥珀
- 1.57 アクアマリン・エメラルド・ポリスチレン・PET・ポリカーボネート・ポリ塩化ビニル
- 1.63 トルマリン・トパーズ
- 1.76 ガーネット・サファイア・ルビー
- 1.98 ジルコン
- 2.41 ダイヤモンド
この一覧は、使いやすいように数値を簡略化しています。
あまり厳密な数値にこだわりすぎると扱うのが大変なので、このくらい大まかにまとめた方が実用的です。
宝石のカットは同じでも、IORの違いで見た目が変わります。
IORを作りたい宝石の値にして、好みのベースカラーを設定すればできあがり。
下の画像はいろいろな宝石の設定例。右下がベースカラーです。
IORと反射率
現実の物質には「IORが高い物体ほど光を強く反射する(反射率が高い)」という性質があります。
宝石がキラキラ輝くのは、IORが高いためです。
特にダイヤモンドは、最高クラスのIORなので反射率も高く、強く輝きます。
プリンシプルBSDFにはこの仕組みが組み込まれていて、伝播が「1」の場合、IORを設定すると最適な反射率に自動で調整されます。
「IORは実際の物質に基づいた値を設定するのが基本」というのは、この点でも重要になります。
なお、この場合はスペキュラーによる反射率の調整ができなくなります。
スペキュラーについてはこちらの記事を参照してください。
宝石作りのポイント
レンダーエンジンはCyclesを使う
宝石の中に現れる複雑で美しい模様は、Cyclesでしか描画されません。
この模様は、宝石の手前の面と奥の面の屈折が干渉し合って生まれます。
EEVEEはレンダリング高速化のために、奥の面は省略して手前の面だけで屈折処理を行うため、宝石としては残念な結果になります。
伝播の粗さで深みを表現する
現実の宝石は物質として均一ではないため、内部で透過光に歪みやボケが生じ、それが色合いの深みに繋がります。
CG的に、透過光に全く歪みやボケの無い画像にすると、作り物臭く、安っぽい見た目になってしまいます。
※右の実物の画像 出典:GemPro 1.34 ct Saphir Bleu
「伝播の粗さ」を調節して透過光を適度にぼかすと、宝石内部の色合いの深みを表現できます。
なお、ダイヤモンドやスワロフスキーなど透明度の高い宝石では、「伝播の粗さ」は「0」にします。
「粗さ」で素材のやわらかさを出す
磨き上げられている宝石は、基本的に粗さを「0」にします。
しかし水晶や琥珀のような硬度の低い宝石は、表面の光沢が少しやわらかいものが多いです。
そういう宝石は粗さを少し上げて表面を軽く曇らせると、より本物らしくなります。
粗さを上げると透過光もぼやけます。
透過光「だけ」をぼかす「伝播の粗さ」とは効果がかぶるので、どちらかを使う場合、もう片方は「0」にします。
※真ん中の実物の画像 出典:Gem Rock Auctions
Briolette Cut Gemstones - What Are They? | Gem Rock Auctions
環境テクスチャを使う
ワールドの背景が単色の場合、透過光と反射光が均一すぎて、宝石らしさがうまく表現されません。
背景に「環境テクスチャ」を設定すると、透過光と反射光に変化がついて、宝石らしい立体感と透明感が出せます。
テクスチャで色変化をつける
ベースカラーにテクスチャを繋ぐことで、様々な色変化を表現できます。
こちらは琥珀風の模様。
ただし、これは静止画でのみ有効です。
実際の宝石の模様は内部構造のムラに由来するので、見る角度を変えると奥行きのある変化をします(煙や雲を別の向きから見る時のように)。
しかしテクスチャでの表現はサーフェス(物体表面)の模様となるため、見る角度を変えても、そういう奥行きのある変化はしません。
宝石を回転させるなどで動かすと不自然さが目立つので、アニメーションでは使わない方が良いと思います。
手っ取り早く宝石モデルを楽しむには
Blenderには標準で
- Brilliant Diamond
- Diamond
- Gem
の三種類の宝石モデルが用意されています。
(正直、DiamondとGemは、宝石のカットとしては謎な形ですが…)
これらは標準アドオンの「AddMesh Extra Object」を有効にすると使えるようになります。
アドオンを有効にする手順
編集(Edit) > Preferences > アドオン(Add-ons) > 追加メッシュ(Add Mesh) > AddMesh Extra Object
アドオン有効後は、メッシュ追加メニューの中に「Diamonds」が追加されます。
以上、宝石の作り方でした。
※添削・構成アドバイス:相方
もっといろいろな宝石モデルを楽しむには
宣伝です。
今回使用した宝石の3DモデルをBOOTHで販売しています。
改訂履歴
2022年2月14日
- 反射率の設定に関する説明を修正。
- スペキュラーの説明を削除。
- 環境テクスチャの説明を追加。